「里山の四季」(夏)
■ 夏 (6月~8月)
■■■ 夏 ■■■ /Summer/Satoyama
Summer/ 水がぬるんだ田園の中で、初夏の水音が響き渡る。
Summer/ 田園の中から顔を出した若い苗が風に吹かれている。
Summer/ 生き物はみんな太陽に向かって手のひらをいっぱい広げている。
Summer/ そっとしゃがむと、土と水の匂いが心地よく満ちわたる。
Summer/ 小鳥がはしゃぎ、お花畑の上を空中散歩している。
Summer/ 里山の夏は里山に生の息吹を与えてくれる。
7.先祖の霊が帰ってくる(8月)
幼い頃、お盆になると母と一緒にナスとキュウリで馬や牛を作り、ロウソクをともして家の門口に飾った記憶がある。お盆にはご先祖様の霊が帰ってくる、というように霊を身近に感じる感覚を、かつては日本人はみな持っていた。そして今もまだ、里山にはそのような心情が残されている。炎のきらめきは暗い闇の世界に一度、無数の小さな炎が浮かび上がる。祈りの声が聞こえてくる。炎はやがて村への道を示す線となる。明かりの道をたどるうちに、見知った山や川が見えてくる。人々の祈りと踊りの太鼓の声がゆっくりと近づいてくる。
6.夏山にはこころの開放感があるのです(7月-2)
山というものは、ひとりで歩けば味わいが増します。自然というものは慎み深く、味わい深いものです。でも夏山となると、気持ちがふだんとは違った高ぶりを感じます。紺碧の空と白い雲のコントラスト。山稜が描く天と地との力強いアウトライン。斜面に広がる高山植物群。濃い緑の木々。どれをとっても慎み深くはなく、味わいも深くもない。ただ、強く、激しく、陽気です。これが夏山の魅力です。そして心浮き立ち、華やぎ、弾み、踊るような、こころの開放感が夏の山にはあるのです。森の緑は十分な慈雨を得て、その深みを増し、風景自体が、みずみずしく、しかもどっしりとした落ち着いた雰囲気を漂わせています。
5. 大きなガラス窓は季節を映す額縁です(7月-1)
いま、梅雨のまっさかりである。7月に入り、いよいい梅雨も終わりかなと思っていたが、今月末まで伸びそうである。雨は、森をしっぽりと濡らしてくれる。僕の書斎の大きなガラス窓は、森を、里山を映す額縁です。額縁のなかには緑と空間があふれています。木々は雨で正気を増し、ちょっと前まで、みずみずしい若草色の新緑を映していた画面が、わずかの間に埋め尽くされています。木々にとっては今が、一年中で一番の成長期なのです。霧が流れ、いくえにも重なる木々を包み込み、森全体を乳色に覆います。視界がかすみ、さらにかすむにつれて、森の奥行がより深く、より永遠に感じられます。
4.里山の特有の匂いがあります(6月-4)
梅雨のこの時季、家の中がなんかカビ臭いねと言われる。よく言えば、「木の匂いがいっぱい!」と。ふだんの生活の中では気づかないが、たまに友人が来ると、この家は何か日本独特の匂いがするといわれる。周りが一面、田んぼ・畑・森の空気に包まれて生活していると、森の音、森の声、森をわたる風の感触はわかっても、匂いは感じなくなってしまう。発散放出する自然の匂い、四季の変化に対応した木々や緑が家にも染み込んだのだろう、そしてこれが日本の素敵な匂いと解釈している今日この頃である。
3.緑たなびく棚田(6月-3)
稲穂のざわめきが、一陣の風と一緒に駆け抜けていきます。この豊かな稲の波が黄金色に色ずくまで、猛暑、日照り、台風、生い茂る草や虫たちから、稲を守る戦いの日々でもあります。夏の朝いちばんの仕事は、田の水の確認です。早朝、夕暮れには決まって棚田のどこからからブンブンとモーターの音が聞こえてきます。夏の農作業の中心は何と言っても土手の草刈りです。草は恐ろしい勢いではこびり、水路をふさいでしまいます。草刈りは短く切り込んでおくことで、土をしっかり固める効果もあります。人が自然と真っ向から付き合うことは、限りない労働の繰り返しを受け入れることかもしれません。やがて秋がくれば、草はおとなしくなる。私はそれを体でわかるようになりました。里山生活を通して自然の営みが体に染みついてきたかもしれませんね。
2.ひと雨降るごとに(6月-2)
6月は一年じゅうで、一番活気に満ちた季節です。ひと雨ふるごとに、森に生気が満ち溢れていくさまが、手に取るように見えるのです。梅雨のしとしと雨が森を潤す風景をみていると、「慈雨」という言葉が自然と出てきます。そしてこの季節はまた、一年じゅうで一番にぎやかな季節でもあります。夜明けとともに、キョロキョロ、ととぼけた声で鳴き始めるのはアカハタ。草むらでさえずるアカハラの声を、気持ちのいい眠りの中で聞くと、「もう朝なのか」と、夢うつつに白々と明け始めた森の夜明けを感じるのです。そしてカッコー。5月半ばにやってきて、7月初めにはいなくなってしまうカッコウはこのひと月半の間だが、私の目覚まし時計となっている。梅雨の空の下で私の森の生活が始まります。
1.小鳥とともに(6月-1)
これからの季節、夜は蛙の合唱団、朝は鳥たちのさえずり合唱団と、何とにぎやかである。新緑で覆われた田園の中で暮らす我が家は、夜から朝にかけて何重ものの合唱団で、自然の営みの音が響き渡っている。シジュウカラ、コガラ、ウグイス、ホトトギス、アカゲラ、オオルリ、コゲラが夜明けとともにいっせいに鳴きだす。こんな鳥たちのコーラスを聴けば、人間だってもう眠ってはいるわけにはいかない。青い空に真白き雲が湧き、その空間の中で鳥たちも歌い暮らしている。ファームで土いじりをしていると鳥たちの明るく陽気なさえずりが心地よく聴こえてくる。この自然界の中でハーモニーを奏でながらひとつの旅をしているのだと思う。人間も陽気に誘われて鳥のように飛び回り、旅したくなる気分である。